環境時代を切り拓く、鉄道の未来を支えるコンデンサとは?
環境問題やエネルギー問題を克服するためのキーテクノロジーの1つとして注目されているのが、電力を効率よく変換、制御するパワーエレクトロニクス技術(※1)です。TDKが開発したModCap™シリーズは、鉄道や再生可能エネルギーにおけるパワーエレクトロニクス用コンデンサで、これまでにない画期的なソリューションを提供します。
鉄道の環境性能向上に対する技術課題
環境問題に対する関心が高まる中、貨物輸送をトラックから、地球環境にやさしく大量輸送が可能な鉄道や船舶に移行させる「モーダルシフト」が注目されています。特に鉄道は、輸送量当たりのCO₂排出量が一番低く、もっともエコな交通手段だと言えるでしょう。また、新興国の経済成長に伴う交通需要の増大により、鉄道への期待がさらに高まっています。
環境時代に求められる鉄道車両には、これまで以上の省エネルギー化が必要となります。そこで重要なのが、パワー半導体(※2)を使用して電力の制御や変換を行うパワーエレクトロニクス技術の進化です。電力を使用するとエネルギーの一部が熱に変換されてしまいます。この無駄になってしまった電力を、電力損失(ロス)と呼び、その損失を限りなく減らすことがエネルギーの効率利用につながります。具体的に、鉄道車両におけるパワーエレクトロニクス技術は、モータを制御するためのインバータ装置などを指します。インバータ装置に搭載されたパワー半導体が、直流から交流への電力変換を行って、モータ回転を制御することにより、電力損失を減らしています。このインバータ装置では、コンデンサが直流を平滑化することによって直流から交流への電力変換を支えています。
パワー半導体には様々な種類がありますが、現在、電力制御のために主に用いられているのが、IGBT(※3)です。高速でスイッチングできるため電力損失が少なく、しかも高耐圧で大電流下での使用に最適です。ただし、パワーエレクトロニクス技術の進化のためには、IGBTをはじめとするパワー半導体の性能はもちろん、共に使用されるコンデンサ(※4)の高性能化も重要な課題となります。
従来の常識を打ち破った、画期的なパワーエレクトロニクス用コンデンサ・ソリューション
パワーエレクロニクス用コンデンサに、特に求められるのが、鉄道車両の省スペースにつながる小型・軽量化や、振動や温度環境などに耐えうる信頼性・耐久性の向上です。また、鉄道車両などで使用されるコンデンサは、インフラという性格上、毎回、顧客が指定する仕様に合わせて特注で設計・製造されることが一般的でした。しかし、こうした特注品では開発期間が長くなり、またコストも高くなるなどといった課題がありました。
TDKが開発したModCapは、IGBTとの接続を想定して設計された、パワーエレクトロニクス用コンデンサです。従来の常識を破り、業界に先駆けて標準規格化とモジュール化(複数の部品を組み合わせて製品化する)に成功した製品です。主な特長として、次の3つが挙げられます。
1つ目は、最先端の設計手法を駆使し、さらに半導体との連結構造を最適化したことによる小型・軽量化です。従来の特注方式のMKKシリーズに代わり、ModCapは直方体のプラスチックケースを採用して、最高水準の小型・軽量化およびエネルギー密度を実現しました。これによって、鉄道における電力システム全体のコンパクト化などに貢献します。 2つ目は、優れた信頼性と耐久性です。従来は85℃が限界だったホットスポット(内部温度が最も高い部分)を最高90℃まで許容できます。さらに、火災および発煙に対する、鉄道分野の安全基準は最高要件を満たしています。 3つ目は、業界に先駆けて実現した標準化およびモジュール化です。これにより、これまで特注で対応していた個別ニーズを、仕様別に幅広いラインアップで提供することが可能になりました。加えて、開発期間の大幅な短縮化と共に、製品価格も大幅に引き下げることを実現しました。
再生可能エネルギーや産業用機器にも最適
Industrial Engineer / Director
Product Marketing High Power Capacitors
Aluminum and Film Capacitors Business Group
TDK Electronics Components
ModCapの今後の展望について、エンジニアで、TDKのグループ会社であるTDK Electronics のVictor Alcaide Lozano(Director of Product Marketing for PEC HP Capacitors)はこう話します。
「ModCapは鉄道だけでなく、再生可能エネルギー設備用のインバータ用途や、低電圧から中電圧の産業用設備などにも最適で、今後さらなる需要の増加が望まれます。また現在、パワー半導体はSi(シリコン)が主材料ですが、次世代材料として注目されている、SiC(シリコンカーバイド※6)にも対応できる、ModCapの準備をすでに進めています」。
SiCを使用したパワー半導体は現在のSiを使用したものより、さらに電力損失が少なくなると言われています。今後もTDKは、画期的なパワーコンデンサの開発を通じて、鉄道や再生可能エネルギーの高効率な電力制御・変換を実現し、エネルギーの有効活用を進めることで、脱・炭素社会の実現へ貢献していきます。
・製品情報
Product catalog: Power Capacitors for DC applications | TDK Electronics - TDK Europe
ModCap – New modular standard series | TDK Electronics - TDK Europe
365〜3900 µFの広い容量範囲、900〜2300 Vの電圧、低ESL、および最大200,000時間の長寿命を誇ります。詳細は、プロダクトセンターをご確認ください。
用語解説
- パワーエレクロニクス:パワー(電力用)半導体素子を用いた電力変換と制御に関する技術。家庭からオフィス、大規模なシステムや工場にいたるまで、電気エネルギーの効率的利用に大きな役割を果たしている。
- パワー半導体:電力の制御や変換を行う半導体の総称。代表的なものには、パワートランジスタ、サイリスタ、ダイオードがある。
- IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistorの省略形。絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタという意味で、パワー半導体デバイスの一種。
- コンデンサ:抵抗器、インダクタと並ぶ3大受動素子の1つ。コンデンサには直流電圧を加えると電流は通さずに電荷を蓄え、交流電流を通す性質がある。電荷を蓄える性質を利用して電源の整流・平滑回路などに、また交流を通す性質を利用してフィルタやインピーダンス・マッチング用などに使われる。
- SiC(シリコンカーバイド):シリコン (Si) と炭素 (C) で構成される化合物半導体材料。